3.新しい金融行政の枠組み

3.新しい金融行政の枠組み

構造改革を加速するための金融行政の新しい枠組みを構築することを目的に、以下の措置を講ずる。

(1)資産査定の厳格化

金融機関の資産査定については、これまでにも増して厳格化を図るため、以下の施策を講ずる。

(ア)資産査定に関する基準の見直し

資産査定の基準については、市場評価との整合性を図るため、以下の措置を講ずる。

① 引当に関するDCF的手法の採用

主要行において要管理先の大口債務者については、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式を基礎とした個別的引当を原則とし、早急に具体的手法を検討する。

② 引当金算定における期間の見直し

主要行において、暫定的に定められている1年基準及び3年基準について、米国等の扱い等を踏まえ検討を行う。

③ 大口債務者に対する銀行間の債務者区分の統一

主要行について正常先でない大口債務者の債務者区分に関しては、適正な資産査定を実施している先にレベルを揃えるための具体的な仕組みを導入する。

④ デット・エクィティ・スワップの時価評価

株式を上場しているなど合理的に株価を算定することが可能な大口貸出先向けのデット・エクィティ・スワップに関しては、取引の時期を問わず、時価評価を適用することを検討する。

⑤ 再建計画の厳格な検証

再建計画の進捗状況や妥当性を継続的に検証することを目的とした専門家を含む検証チームを設置する。

⑥ 担保評価の厳正な検証

鑑定評価を担保評価に用いている場合には、原則として独立した不動産鑑定士による法定鑑定を用いる方向で検討する。

(イ)特別検査の再実施

平成15年3月期について、リアルタイムの債務者区分の厳格な検証を継続する形で、特別検査の実質的な再実施を行う。

(ウ)自己査定と金融庁検査の格差公表

これまで実施された金融庁検査を基に、主要行の自己査定と検査結果の格差について集計ベースで公表する。自己査定と検査結果の格差については、今後定期的に公表する扱いとし、各行に格差是正を求める。

(エ)自己査定の是正不備に対する行政処分の強化

正当な理由がないにもかかわらず自己査定と検査結果の格差が是正されない場合には、当該行に対し、業務改善命令を発出する方針を明確化する。

(オ)財務諸表の正確性に関する経営者による宣言

資産査定を含む財務諸表が正確であることに関し、代表取締役に署名を求めることを検討する。

(2)自己資本の充実

金融機関の自己資本については、資本の質の実態を見極めつつ、真の充実を図るため、以下の施策を講ずる。

(ア)自己資本を強化するための税制改正

金融機関の自己資本を強化するため、以下の措置を関係府省に強く要望する。

① 引当金に関する新たな無税償却制度の導入

破綻懸念先以下の債務者に関しては、金融庁の監督と検査の下での自己査定の結果を以って無税対象と認定する制度の導入を要望する。また、部分直接償却により企業会計上損失が確定した場合についても、例えば、無税償却に係わる担保処分要件の緩和等特段の配慮を求める。

② 繰戻還付金制度の凍結措置解除

欠損金の繰戻還付について、凍結措置の解除及び期間の延長を要請する。

③ 欠損金の繰越控除期間の延長検討

現行5年となっている繰越控除期間の延長を要請する。

(イ)繰延税金資産に関する算入の適正化

繰延税金資産については、その資本性が脆弱であるため、自己資本比率規制における取扱いについては、会計指針の趣旨に則ってその資産性を厳正に評価するとともに、算入上限についても速やかに検討する。

(ウ)繰延税金資産の合理性の確認

主要行の経営を取り巻く不確実性が大きいことを認識し、翌年度を超える将来時点の課税所得を見積もることが非常に難しいことを理解した上で、外部監査人に厳正な監査を求めるとともに、主要行の繰延税金資産が厳正に計上されているかを厳しく検査する。

(エ)債務者に対する第三者割当増資部分の検討

債務者が引き受けている第三者割当増資部分に関しては、実質的な迂回融資になっていないかなど、資本としての適格性を念入りにチェックする。

(オ)銀行の自己資本のあり方に関する考え方の整理

今回の一連の措置で整理し切れなかった論点については、金融庁としての見解を引き続き検討し、今後の自己資本比率規制の見直しにつなげる。

(カ)自己資本比率に関する外部監査の導入

自己資本比率規制上の自己資本比率の算定を外部監査の対象とすることについて、法令上の手当を含めて検討する。

(3)ガバナンスの強化

金融機関経営におけるガバナンスを強化するため、以下の施策を講ずる。

(ア)外部監査人の機能

資産査定や引当・償却の正確性、さらに継続企業の前提に関する評価については、外部監査人が重大な責任をもって、厳正に監査を行う。

(イ)優先株の普通株への転換

政府が保有している銀行の優先株の普通株への転換については、期限の到来、経営の大幅な悪化など諸条件に該当する場合には転換する方向で、運用ガイドラインを可及的速やかに整備する。

(ウ)健全化計画未達先に対する業務改善命令の発出

健全化計画等の未達に関しては、その原因と程度に応じて必要性を判断し、行政処分を行うとともに、改善が為されない場合は、責任の明確化を含め厳正に対応する。

(エ)早期是正措置の厳格化

早期是正措置における現行区分のあり方を含め、各区分における措置の内容を厳格に見直す。

(オ)「早期警戒制度」の活用

自己資本比率に表されない収益性や流動性等、銀行経営の劣化をモニタリングするための監督体制を整備する。