1.新しい金融システムの枠組み

 1.新しい金融システムの枠組み

構造改革を加速するための新しい金融システムを構築することを目的に、以下の措置を講ずる。

(1)安心できる金融システムの構築

国民が金融機関に対する不安を抱くことなく暮らせるようにすることを目的に、以下の措置を講じて安心できる金融システムを構築する。

(ア)国民のための金融行政

金融行政が護るべき対象は、預金者、投資家及び借り手の企業や個人など国民であることを確認する。

(イ)決済機能の安定確保

決済機能の安定確保を図るために、その全額を保護の対象とする「決済用預金」を平成17年4月に導入する。それまでの間については、不良債権処理の加速等の政策強化を進める中で、預金者にいたずらに不安を与えることのないよう、ペイオフの完全実施を延期する。

(ウ)モニタリング体制の整備

金融庁内に「金融問題タスクフォース」を新設し、平成16年度には不良債権問題を終結させるという目標の達成に向け、その状況をモニタリングする。

(2)中小企業貸出に対する十分な配慮

主要行の不良債権処理によって、日本企業の大宗を占める中小企業の金融環境が著しく悪化することのないよう、以下のセーフティネットを講じる。

(ア)中小企業貸出に関する担い手の拡充

中小企業の資金ニーズに応えられるだけの経営能力と行動力を具備した新しい貸し手の参入については、銀行免許認可の迅速化や中小企業貸出信託会社(Jローン)の設置推進などを積極的に検討する。

(イ)中小企業再生をサポートする仕組みの整備

実態に合わせて中小企業の再生をサポートできるよう、信託機能やデット・エクィティ・スワップ等の活用など、金融上の仕組みの整備を検討する。

(ウ)中小企業貸出計画未達先に対する業務改善命令の発出

健全化計画における中小企業貸出計画に関する重度の未達先に対しては、原則として業務改善命令を発出し、軽度の未達先に対しては、即時に改善策の報告を徴求する。

(エ)中小企業の実態を反映した検査の確保

中小企業の実態を反映した的確な検査等を確保する。また、借り手企業に対し、金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)の趣旨・内容を周知徹底する。

(オ)中小企業金融に関するモニタリング体制の整備

金融機関による不当な「貸し剥がし」等が発生しないように、モニタリング体制を強化するほか、必要な場合には効果的な検査を実施する。

①「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」の創設

中小企業が、今回の一連の措置や金融検査マニュアルなどを理由に、金融機関から貸し渋り、貸し剥がし等の不当な扱いを受けた場合に、金融庁に直接通報できるよう、ファックスやEメールの受付窓口を金融庁内に設ける。

②「貸し渋り・貸し剥がし検査」の実施

「貸し渋り・貸し剥がしホットライン」によって通報された内容を吟味した結果、重大な問

題があると判断される場合には、その金融機関に対して報告を徴求するほか、必要があれば検査を実施し、適切な行政処分を行う。

(3)平成16年度に向けた不良債権問題の終結

金融機関の不良債権問題の解決に対して政府が積極的に関与するとの立場から、以下の措置を講ずる。

(ア)政府と日銀が一体となった支援体制の整備

個別金融機関が経営難や資本不足もしくはそれに類似した状況に陥った場合等には、以下に示す「特別支援」の枠組みを即時適用し、万が一にもシステミックリスクが発生し、または経済が底割れすることのないよう、政府・日本銀行が一体となって万全の対応を期す。

① 日銀特融による流動性対策

万が一金融危機のおそれが生じた場合には、金融庁は責任をもって適切な対応を取るとともに、日本銀行に特別融資等必要な措置を要請し、一体となって万全の危機管理体制を整備する。

② 預金保険法に基づく公的資金の投入

必要な場合には、現行の預金保険法に基づき、速やかに所要の公的資金を投入する。

③ 検査官の常駐的派遣

「特別支援」の対象となった金融機関(「特別支援金融機関」)の取締役会や経営会議などに、検査官を陪席させることを検討する。

(イ)「特別支援金融機関」における経営改革

「特別支援金融機関」においては、経営を改革し、早期健全化を行う。

① 経営者責任の明確化

「特別支援」を受けることとなった金融機関を代表する経営者については、責任の明確化を厳しく求める。

② 適切な管理方法

「特別支援」を受けることとなった金融機関においては、「新勘定」と「再生勘定」に管理会計上分離し、適切に管理する。

③ 事業計画のモニタリング

「金融問題タスクフォース」は、「特別支援金融機関」の新しい経営陣による事業計画をチェックしてその妥当性について金融担当大臣に助言するほか、その履行状況をモニタリングし、金融担当大臣に報告する。なお、上記適切な管理方法を適用した後も黒字体質に転換しないなどにより必要と思われる場合は、適切な措置を金融担当大臣に進言する。

(ウ)新しい公的資金制度の創設

金融システムの安定に万全を期しつつ、不良債権問題を終結させるため、迅速に公的資金を投入することを可能にする新たな制度の創設の必要性などについて検討し、必要な場合は法的措置を講ずる。